Vol.017 雑穀
岩手県の県北地域は、冷涼な気候から農作物の栽培に不向きとされてきた。品種改良や農業技術が発達した現代と異なり、その昔、人々の食の支えとなったのが、寒さに強い「あわ」「ひえ」「もちきび」などの雑穀だった。最近ではミネラルや食物繊維など栄養価の高さに注目が集まっている。
岩手県一戸町出身。1941年生まれ。大工として首都圏で働いていたが、60歳を区切りに一戸町に戻り就農。尾田川農園と契約し、主にあわとエゴマを栽培。農園内で、あわの収量が一番多いことから、「あわの先生」とも呼ばれている。
現在岩手の雑穀は、日本一の生産量を誇る。中でも二戸市、軽米町、一戸町などの県北地域では、米に代わる食糧として古くから栽培されてきた。
今回訪れたのは、一戸町の月舘地区にある東山初雄さんの畑。雑穀の中でも、あわを中心に育てている。あわの栽培は5月上旬から始まる。堆肥と肥料を入れた土に種をまき、約1カ月、芽が出るのを待つ。その後は、雑草を取りながら生長を見守る。7月末頃になると穂が実り、約1カ月で緑色から茶色へと変わる。さらに1カ月経った10月に、収穫の時を迎える。
親指程だった小さな芽は、1メートルを超える丈に。その中を、東山さんと妻のキミさんはかき分けながら入っていき、鎌で刈り取る。10本前後を1束にし、腰に括り付けて進んで行く。刈り取り後は、木組みの柱に束をかけて天日干しする。ほぼ全ての工程が手作業だ。「約5カ月、愛情を込めて育てていますから、収穫を迎えると何年経っても嬉しいですね」と笑顔をみせる。
脱穀したあわは、軽米町にある尾田川農園へと運ばれる。同農園は県北地域の農家と契約を結び、種や苗のサポートから流通までを手掛ける。契約の条件は、農薬不使用・有機栽培。農家と消費者の橋渡し役を担っている。
東山さんご夫婦は現在79歳。周囲も高齢の農家が目立つ。草取りから鎌での刈り取りまで手作業は体力勝負だが、すくすくと育つ姿が何よりの喜び。その先には、安全・安心な雑穀を喜ぶ人たちの笑顔がある。
(左から)東山初雄さん、キミさん夫婦と、尾田川農園代表の尾田川勝雄さん。「尾田川さんが支えてくださるので、安心して栽培できます」と初雄さん。
●材料
米…2カップ(約300g)、いなきび…大さじ2、たかきび…大さじ1、あわ…大さじ1、ひえ…大さじ1
●作り方
- 米に雑穀を混ぜて、一緒に研ぐ。
- 炊飯器に移し、2合の目盛まで水を入れる。
- 一晩置き、白米と同じ水加減で炊いて完成。
(左下から時計回りに)ひえ、たかきび、あわ、もちきび。
安藤直美さん
岩手県食の匠。二戸市で2008年まで雑穀茶屋を運営し、ポタージュや真砂和えなど雑穀の様々な食べ方を発信。現在は各地で食育講座を開催している。
雑穀は白米の量に対して約20%加えると、ミネラルや食物繊維がたっぷりで理想的な栄養バランスになります。もちきびを多めに入れると、色合いも食感も良くなります。
「雑穀はかつて稲作に向かない地域の代用食のイメージがありましたが、今では一新されました。栄養豊富な上に低カロリーですから、ぜひ多くの人たちに食べてほしい」と内澤多賀志さん。雑穀をもっと宣伝しなければと、雑穀入りのメニューをいくつも考案。中でも自信作が、もちきび入りのハンバーグだ。「パテに対して10%前後加えると、肉の存在感はそのままに、モチモチとした食感と甘みが加わってとても美味しいですよ」。
ハンバーグの中には、もちきびの小さな粒がたっぷり。
Chef’s Memo 煉瓦のかたちをしたハンバーグは、250gとボリューム満点。箸で一口サイズに分けてご飯と一緒にほおばる、まさに定食屋さんのスタイル。
雑穀はかたいイメージがありますが、熱を加えれば大丈夫。もちきびの場合、水に浸してからレンジで約10分加熱すると柔らかくなります。
内澤多賀志さん
岩手県軽米町出身。1950年生まれ。実家は約60年続く大衆食堂「内まる屋」。高校卒業後、東京で約10年過ごし、家業を継ぐために帰郷。南部せんべいの天ぷら入りの「軽米ラーメン」をはじめ地元愛あふれる新メニューを考案。
岩手県九戸郡軽米町軽米22-44-420
営業時間:10:00~20:00
定休日:1月1日、2日
電話:0195-46-2318
「雑穀」の取材は
下記の皆様にご協力いただきました。
- 尾田川農園
〒028-6302 岩手県九戸郡軽米町大字軽米19-73
TEL:0120-017-359 - 内まる屋
〒028-6302 岩手県九戸郡軽米町軽米22-44-420
TEL:0195-46-2318