「ピアットスズキ」の鈴木弥平シェフは、全国各地の生産地へ積極的に足を運び、生産者の仕事ぶりにも関心を寄せる。佐藤ぶどう園との出会いは6年程前、岩手の食材巡りをした時のことだった。
「ぶどう園を見学させてもらったのですが、作業自体は一見、他と同じように見えるけれども、こだわり方や情熱が違うと感じたんです。栽培方法について色々たずねたのを覚えています」
当時のことを佐藤秀明さん、徹さん親子もよく覚えているという。「たくさん質問していただき、とても熱心な方だなと思いました。そこまで食材に気を配り使っていただけるのは生産者冥利に尽きます」
鈴木シェフが見学に訪れて以来、継続して取り寄せているのが「生レーズン」。最初に口にした時は「衝撃的だった」という。
「通常のレーズンとは大きさがまるで違いますし、カチカチにドライではなくて柔らかさがあります。生食の風味を残しているのが魅力ですね」
レーズンの素材そのものの良さを味わってほしいとの思いから、店ではあえて手を加えずに前菜もしくはデザートとして提供している。今回紹介するのは、旬を迎えた生食のぶどうと生レーズンを使用したオリジナルデザート。佐藤さんのぶどうは皮の渋みが少ないことから、皮を砂糖水に通し、乾燥させて使用。さりげないひと手間から、素材の良さを余すことなく引き出そうとする、シェフの愛情が伝わってくる。
Vol.008 ぶどう
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佐藤ぶどう園のこだわりは「一枝一房」。
厳選した一房の一粒一粒に
日光と栄養が行き渡るように
毎日園内の品質管理を徹底する。
ぶどうを見つめる表情は、
まるで我が子と向き合うかのよう。
すくすくと成長しているだろうか
病気にかかっていないだろうか
優しく、大事に、思いを込めた分だけ
味わいとなって応えてくれる。
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名称:紅伊豆
最盛期:9月
●特徴
赤色大粒系のぶどう品種。果粒が13~16gと大粒になり、糖度は18~20度と高い。花巻では「イーハブドリ」のブランド名で出荷。岩手が生産量全国一位。
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一枝一房。
作り手の思いに応えて味となる
9月上旬、園内に入ると心躍る光景が広がっていた。収穫期を迎えた色鮮やかなぶどうが隅々まで一面に実っている。近づいてみると、それぞれのぶどうの周囲には一定の間隔が保たれている。佐藤ぶどう園のこだわりは、「一枝一房」。栄養を行き渡らせるために丁寧に間引きをし、一枝につき一房を基本としている。
ぶどうに注がれる愛情は、一房から一粒にまで及ぶ。「房の先端から軸まで隙間がなく、フットボールのような楕円形に仕上げたい。そのために大事なのが、7月頃から始める摘粒作業(粒の間引き)。一房あたり紅伊豆なら35粒、マスカットなら40~45粒が理想です」と、佐藤徹さんが教えてくれた。
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佐藤ぶどう園は佐藤徹さんと父の秀明さんが中心の家族経営。最盛期にはパートさんが5人加わり、収穫や発送作業にあたる。
手がける品種は「安芸クイーン」、「シャインマスカット」、「藤稔」などの大粒種。中でも一番人気は希少種の「紅伊豆」だ。味わいは甘みが濃厚、それでいて後味が爽やかなので飽きがこない。水分量が多く、口に入れたときの瑞々しさも魅力だ。だが一方で、その特長が栽培の難しさにつながっている。「水分を多く含み過ぎると実割れしてしまうし、劣化にもつながります。日々状態を見て、一生懸命手をかけることが大事。そうすれば、ぶどうはこちらの思いに応えてくれますから」
美味しさの秘密は、妥協なき姿勢の中にあった。
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佐藤徹さん(左)と父の秀明さん。花巻市出身。秀明さんはサラリーマン生活の後、26歳の時に先代から農家を継いだ。徹さんはアパレルや飲食店に勤務後、24歳の時に就農。ぶどうの六次産業化やシェフへのプロモーションなどにも積極的に取り組んでいる。
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佐藤ぶどう園の代名詞ともいえるのが、房のまま乾燥させた「生レーズン」。甘みの中にほのかな酸味もあり、レーズンとは思えぬ程柔らかい。乾燥温度・時間の研究に丸2年を費やし、理想の食感にたどり着いた。「B級品を素材にして加工すると思われがちですが、うちはあえて生食の贈答用を使用していますので、味には自信があります」(佐藤徹)
ぶどうそのものより果実味を感じるひと皿
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茨城県出身。調理師専門学校卒業後、平田勝シェフに師事し腕を磨き、本場イタリアのリストランテでも修行を積む。2002年、35歳で独立し「ピアットスズキ」オープン。食材の生産地・生産者の応援にも力を入れており、地元茨城では「食のアンバサダー」を務める。
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きれいに
皮をむくコツ
大粒種のぶどうは水分量が多く、そのままの状態で皮をきれいにむくのが難しい。そこで、ひと工夫として冷凍庫を利用する。ぶどうの表面を凍らせてから湯むきすると、果汁を逃すことなくスルリときれいにむける。
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