Vol.006 牡蠣
北上山系の森の栄養分が川を通り、
三陸の海へと流れ込みます。
それが海の豊かさとなり、牡蠣を育てます。
「その牡蠣をさらにおいしものにしたい」と
牡蠣漁師たちは、工夫を凝らし、切磋琢磨してきました。
漁師の想いに応えたかのように、
牡蠣は大きく育ち、滋味あふれる味に。
それが、岩手の牡蠣です。
三代にわたって牡蠣の養殖をしている佐々木学さん(右)と父親の洋一さん。
殻の形がよく、身もふっくらとしている広田湾産の牡蠣。
牡蠣の身を大きく育てるため、出荷の2週間前に殻についた海藻などを取り除き、専用カゴに入れて、再度海へ戻す「活け込み」を行います。
剥き身の牡蠣ほか、殻付き牡蠣も出荷しています。
箱根山から見る広田湾。北上山系が海の間近まで迫り、森の栄養素を海へと運ぶ気仙川が注ぎます。
海の風景を感じるひと皿
「牡蠣の食感を生かすために、
火入れを大切にする。
「牡蠣のしぐれ煮」 醤油とみりんと日本酒でつくったタレで牡蠣を低温調理。最後にタレを絡めたメカブと軽く合わせ、牡蠣殻に盛り付け。飾りは長ねぎや生姜、唐辛子、柚子皮を千切りしたものをトッピング。
三陸の美しい海は、
魚や貝にとっての桃源郷
「以前、吉浜(大船渡市)から船を出してもらったとき、海の透明度の高さに驚きました」という「分とく山(わけとくやま)」の総料理長・野崎洋光さん。山が海を育てるという言葉のとおり、三陸の海は海藻が豊富で、それを餌にする貝や魚も活きがいいとも。さらに、「生産者の勤勉さがおいしい食材を生みだす」と話します。
メカブと合わせて海を彷彿させる
今回は、牡蠣が苦手な人でも食べやすいしぐれ煮に。醤油ベースのタレを表面に絡ませるように煮付け、中は牡蠣の食感と味を残しています。メカブを加えることで、さらに牡蠣が育った三陸を感じられる味になっています。
福島県出身。素材そのものを生かした料理と「食の原点は家庭料理にあり」という考えが多くの人の共感を呼ぶ。2004年アテネ五輪日本代表野球チーム総料理長に就任するなど多方面で活躍中。希望郷いわて文化大使も務める。
東京都港区南麻布5-1-5
TEL 03-5789-3838
営業時間/17:00〜23:00(21:00LO)
定休日/日曜・年末年始
達人に聞く
「牡蠣」を調理するコツ
牡蠣に火入れするときは、下ごしらえと火入れがポイント。湯通しをしてアクを取ってから味付けを開始。醤油ベースのタレに牡蠣を入れ、沸騰したらバットに引き上げ、余熱で火を入れます。それを3〜4回繰り返します。低温調理で、牡蠣の食感と本来の味を生かします。
「牡蠣」の取材は、次の皆さまにご協力を
いただきました。
広田湾漁業協同組合
通信販売ホームページ
http://shop.jfhirota.or.jp
※Wi-Fi接続でのご視聴を推奨します。(動画サイズ:20.8MB)
ぷりっとした弾力とほのかな塩味
乳白色で丸みを帯びたフォルム、濃厚でクリーミーな味。
形も味もよい岩手の牡蠣は、自然の恵みと漁師たちの努力から生まれます。
品質の高い牡蠣を育てるために
岩手県産の牡蠣は、大船渡市赤崎産をはじめ、東京・築地市場などにおいて高値で取り引きされています。その中で、近年注目されているのが、陸前高田市の広田湾産です。
広田湾は、海の間近まで北上山系が迫り、森の栄養分であるミネラルが気仙川から流れ込み、魚介の餌となる植物プランクトンが豊富で、良好な漁場。ここで2年かけて育った牡蠣は、殻が大きく、中の身は艶やかな乳白色でふっくらと太っています。もちろん、味も濃厚でクリーミー。
親子三代にわたって牡蠣養殖漁師の佐々木学さんは、広田湾の牡蠣養殖の特徴は、温湯処理にあると話します。
「真夏の時期、牡蠣に栄養を与えるために、海中から引き上げ、船上で約60〜70度の湯につけて、殻についた海藻やフジツボなどを取り除きます。牡蠣の殻は厚いので、湯につけても中の身に影響はありません」と佐々木さん。出荷前にも、手作業で牡蠣の表面をきれいにしてから専用カゴに入れ、再び海中に戻して身を太らせる「活け込み」を行います。
「牡蠣は手間をかけた分だけおいしくなります。海の中に入れっぱなしはありません。1年目に原板(ホタテの貝殻)に付着した牡蠣の稚貝を間引きしたり、成長に合わせて養殖筏の位置を移動したりもします」
高品質の牡蠣が育つのは、自然の力だけでなく、生産者が惜しみなく手間をかけているからです。
旬は11月から4月まで。特に産卵を控えた早春の牡蠣は栄養を蓄えて大きく、味も深くなっています。