岩手のごっつぉ食べらんせ

北紫雲丹

おいしいウニを育てるために大切なのは、餌。
食べたものがそのまま味に現れるため、
上質な昆布を必要とします。
岩手県洋野町種市のウニ漁師たちは、
そのために遠浅の岩礁に溝を掘り、
昆布を群生させウニが好む環境をつくり上げました。
自然の力と人の知恵から生まれた
「北紫雲丹」は、
美しい色と、
濃厚な旨みと甘さを持つ逸品に……。

岩手県九戸郡洋野町種市

ウニ漁師の吹切守さん(右)は、神奈川県で海洋調査の仕事に携わったのち、帰郷し漁師に。下苧坪之典さん(左)は 、漁師たちが育てた「北紫雲丹」を取り扱う海産物問屋「ひろの屋」の社長。上質な魚介が育つ洋野町を全国に広めるため活動しています 。

生産者 種市南漁業共同組合吹切守(ふっきりまもる)さん 株式会社ひろの屋 下荢坪之典(したうつぼゆきのり)さん生産者 種市南漁業共同組合吹切守(ふっきりまもる)さん 株式会社ひろの屋 下荢坪之典(したうつぼゆきのり)さん

口の中に広がる磯の香りと甘み

他産地のバフンウニより甘みがあるといわれる 洋野町種市産の「北紫雲丹」。
増殖溝で上質な昆布を食べて育つため、深いコクと甘みのある味が生まれます。

自然と人の共同作業で生まれる味

 岩手県の三陸沖は、岩場が多く、海藻が豊富なため、ウニ漁が盛ん。その中核をなしているのが洋野町種市地区です。
 「種市では、ウニの品質を上げ、安定した漁獲高をあげるため、昭和50年以降、岩礁に櫛状の増殖溝を掘りました」というのはウニ漁師の吹切守さん。増殖溝は、当時の漁協の組合長の発案によるもの。それまで、遠浅の岩礁のため、昆布の生育が干潮によって左右されたとか。
 しかし、深い溝を掘ることで干満の影響を抑え、昆布が繁茂しやすい環境をつくりました。餌となる昆布が増えたことで、ウニにとっても生息しやすい状態となり、ウニの品質と生産性の向上を図ることが可能となりました 。
 「(一社)岩手県栽培漁業協会種市事業所で種苗生産された 稚ウニを沖に放流し、2〜3年たったら増殖溝に移します。昆布のみを食べて育つため、雑味がなく身入りのよい『北紫雲丹』になります」と吹切さん。その「北紫雲丹」を取り扱うのが、海産物問屋「ひろの屋」の下荢坪之典さんです。
 「4年かけて育った『北紫雲丹』の剥き身は、保存剤などを使わず、殺菌した海水につけて出荷します。天然のままなので風味が抜群。自信を持って料理人の皆さまにおすすめできます」。
 「北紫雲丹」の収穫時期は、5月から8月まで。甘さと濃厚な旨みを感じさせる夏ならではの味です。

北紫雲丹 生産風景

種市には、ウニの種苗生産を行う「(一社)岩手県栽培漁業協会種市事業所」があります。9月に採取された卵は稚ウニとなり、昆布を食べて育ち、約8カ月後に各漁協に引き渡され、放流されます。

宿戸地区増殖溝03

昭和50年代、種市の沖合200メートル近くまで続く遠浅の岩礁に溝を掘り、増殖溝を建設。地形を活かしたウニの漁場は、全国唯一。干潮時に増殖溝を見られる場合もあります。

海中に潜って、ウニを採取します。船から水揚げしたウニは、漁港内の作業場へ運ばれ、加工されます。

海中に潜って、ウニを採取します。船から水揚げしたウニは、漁港内の作業場へ運ばれ、加工されます。

剥き身用のウニは、ウニが食べた昆布のカスや黒いワタを取り除いてから出荷されます。

剥き身用のウニは、ウニが食べた昆布のカスや黒いワタを取り除いてから出荷されます。


岩手の「食財」をつなぐ 東京中目黒で出会う「北紫雲丹」

風味を際立たせたひと椀

「北紫雲丹」が持つ旨味を際立たせるために、組み合わせる食材を選ぶ。

生ウニの冷製茶碗蒸し

「生ウニの冷製茶碗蒸し」
カツオ とコンブで出汁をとった茶碗蒸しを冷やしたものに、トマトの摺り流しをかけ、生ウニ、カニ、イクラ、白ウリの雷干しをあしらった一品。

漁場の豊かさ、漁師の愛情が
北紫雲丹の味に現れている
夏ならではの味を
特別なひと皿にするために

漁場の豊かさ、漁師の愛情が
北紫雲丹の味に現れている

 岩手県産食材の魅力に惚れ込んでいる「安穏 戊(あんのん つちのえ)」の伊藤勝 料理長。「岩手の生産者は、自分たちが手がけている食材に対する意識が高い」といいます。「種市のウニは、高品質を保つため、増殖溝をつくり、与える餌にもこだわっている。それが味に現れています。あっさりとした味なのに、甘みも旨みも濃厚。臭みがないのも大きな魅力です 」。

夏ならではの味を
特別なひと皿にするために

そのままでも、ほかの食材と組み合わせてもおいしい「北紫雲丹」。旨みと甘みを際立たせるため、トマトなどのさわやかな酸味を持つ食材と合わせたのが、今回のひと皿。夏ならではの彩りと味は、お客さまの評判も上々です。

料理長 伊藤勝さん
料理長 伊藤勝さん

岩手県奥州市出身。東京で和食の料理人として修業し独立。「安穏 戊」を切り盛りするなかで、岩手県食材のすばらしさに改めて気づく。生産者を訪ね、直接連絡を取り、食材を仕入れる。希望郷いわて文化大使も務める。

割烹 安穏 戊

東京都目黒区青葉台1-28-3
エル・アルカサル中目黒2F
TEL 03-3711-5229
営業時間/12:00〜14:30(14:00LO)、18:00〜24:00(22:30LO)。土曜・祝日17:00〜22:00
定休日/日曜、祝日の月曜
※土曜は不定休


達人に聞く
「北紫雲丹」と相性のよい食材は?

ウニと相性がよいのは卵。卵かけごはんや出汁巻き玉子などがおすすめ。ごはんに海苔、ウニ、卵黄を乗せ、醤油をかけて味わうと、卵とウニの濃厚さが感じられ美味。

「北紫雲丹」の取材は、次の皆さまにご協力を
いただきました。

種市南漁業協同組合
株式会社ひろの屋
岩手県九戸郡洋野町種市22-131-18
TEL 0194-65-2408

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