Vol.002 真崎わかめ
三陸の中北部、
岩手県宮古市の田老町漁業協同組合は、
「わかめの国」を自負する。
・地場産の天然わかめだけを
親(地種)とすること。
・太平洋の荒波にさらされる、
天然に近い環境で育てること。
この条件を満たさなければ、
「真崎わかめ」と名乗ることはできない。
真夜中から始まる刈り取り作業は、
日の出まで続く。
明け方のあまりの寒さに、
わかめに付いた水滴は
シャーベット状に変化する。
その傍らで漁師たちは、額に汗をにじませ、
体中から湯気を立ち上らせる。
〒027-0323
岩手県宮古市田老字野原70番地
TEL.0193-87-2171
1974年生まれ。東京で貴金属加工の職人として活躍後、10年前に家業の漁師になるべく帰郷。子どもたちがわかめに興味を持つきっかけづくりとして、種づくりから、間引き、収穫までの体験学習に取り組んでいきたいと語る。
地元漁師が採ったわかめだけを加工し、出荷まで一貫して扱う漁協は全国的に珍しいと思います。塩蔵に加工する際、大事なのは湯通しのタイミングです。水揚げから時間を置かないことで、味・食感の良さを逃しません。それを実現できるのは、漁業者はもちろんのこと、地元のお父さんお母さんたち約50人が頑張ってくれるおかげです。
工場では通年にわたり塩蔵わかめの芯抜きを行います。繊細で機械ではできない工程のため、全て手作業で行います。ベテラン従業員たちの熟練の技に助けられています。
収穫の苦労に抱く感謝の念
震災後、品川区役所に勤める従兄弟が派遣職員として宮古市に配属された期間があり(※1)、それが縁で僕も宮古市を訪れるようになりました。それまでゆかりのない街でしたが、足繁く通ったことで(※2)、今ではとても愛着を感じています。店で真崎わかめを使うようになったのも、従兄弟の薦めがきっかけでした。職業柄、全国各地のわかめを使ってきましたが、食感、味わい、ともに群を抜いていると感じました。料理屋では通常、わかめの芯の部分を取り除くのですが、真崎わかめはそこも美味しいので全部使っています。
田老を訪れた際、わかめ漁を見学したこともあります。冬の寒い海での作業は、いわば命がけです。それを僕らは使わせてもらっているのですから、感謝の気持ちを忘れず、お客さんにお出しする時にはその様子を説明するようにしています。
手を加え過ぎずシンプルに
真崎わかめは素材そのものが美味しいので、シンプルな食べ方が良いと思います。今回お勧めするのは、「わかめの炊き込みご飯」です。わかめを油で少し炒めて、醤油とお酒を少々。昆布出汁で炊いたご飯に載せて、蒸らせば完成です。油脂分や柑橘の香りを加えることで、美味しさがグッと増します(※3)。
1972年生まれ。2004年、恵比寿に「賛否両論」を開店。独創的な感性で作り上げる料理が評判を呼び、予約困難な人気店に。名古屋と広尾に支店があり、香港にも進出予定。
〒150-0013
東京都渋谷区恵比寿2-14-4
太田ビル1階
TEL.03-3440-5572(要予約)
電話受付時間:
平日14時~/土曜11時~
毎月1日に、翌月分の予約受付を開始致します。
- (※1)
- 品川区と宮古市は、毎年目黒駅で開催される人気イベント「目黒のさんま祭り」が縁で、災害時における相互援助協定を結んでいる。
- (※2)
- 笠原さんは震災後、宮古市の産業まつりをはじめ、多くのイベントに参加。三陸鉄道の駅弁や宮古市内の旅館の料理・弁当の監修、宮古水産高校の講師も務めた。
- (※3)
- 四季折々の素材を使い、余分なものは足さず、素材の良さを引き出す「引き算の料理」が日本料理。その魅力を子どもたちに伝えるために、笠原さんは「和食給食応援団」の東日本代表として活躍している。
酢の物や和え物などシンプルにいただく場合、戻したわかめを一度氷水につけると、シャキシャキっとした歯ごたえがいっそう引き立ちます。
JFたろう加工場
(受付:平日9:00~18:00)
JFたろうWEBサイト
http://www.masaki-wakame.com/
短期集中勝負の20日間
わかめ漁の期間は3月から4月。雨の日や風の強い日には作業が難しいため、実質20日前後が勝負です。生ものですから出来る限り日光に当てないように、夜の海に出て明け方まで約6時間、船がわかめでいっぱいになるまで採り続けます。
漁師になるまでは机に向かい、朝8時から夜遅くまでの勤務でした。この仕事は天候に左右されますし、短時間集中型ですから、勝手が全く違います。それでも苦だとは思いません。種から育てたわかめは我が子のように可愛く、やりがいを感じています。今の目標は、周りの漁師たちよりも質の高いわかめを作ることです。皆、仲間でありライバルですから、切磋琢磨していきたいと思います。
親に似ない子はいない
真崎わかめの美味しさの秘密は、「地種」にあると思います。天然わかめを田老の海で採り、遊走子を種として育てていきます。この「地種」が味、歯ごたえ、収量に影響します。そのため種から芽が出る時期には、毎日のように沖に出て水温を測り、状態を確認します。やがて、親に似た形状の芽が出てくるのを見る度に、「親に似ない子はいない」とつくづく思います。あとは育てる側の力量次第です。大変ですが、だからこそ面白さがあります。