Vol.001 いわて牛
畜産家たちは
一頭一頭を 我が子のように可愛がる
サシ(脂)が増えるようにと
無理に餌を食べさせることはしない
すくすくと成長してほしい
その思いが 最高の肉質をもたらす
午前8時
給餌の始まった牛舎に陽が差し込む
光をまとった その毛並み そのたたずまいが
質の高さを物語る
〒023-1131
岩手県奥州市江刺区愛宕字新川58
TEL.0197-35-1779
菊地畜産に就職後、子牛の自家繁殖にも取り組み、10年で25頭まで増やした。繁殖農家が減少しているだけに、使命感を胸に取り組む。
菊地畜産は父、達さんが1974年に創業。1979年生まれの菊地毅さんにとって牛は身近な存在だった。畜産業に抵抗はなかったが、一度は外の世界も見たいという思いがあり、大学卒業後、JA江刺に就職。その後、アメリカに渡り畜産業を学び、28歳のときに家業に戻った。
現在、両親と兄弟で肥育している。生き物が相手だけに、休日はない。出張や所用のときには、誰かが作業をカバーする。
家族故に何でも言い合える分、時には衝突してしまうこともある。だが、菊地さんから出てきたのは感謝の言葉だ。「父からは仕事に対する厳しさを学ばせてもらっています。そして、私たち家族の重要な役割を果たしているのが母です。父や兄と意見が食い違っても、母が間に入ってくれるおかげで、その場が和らぎます。母に支えてもらっているとつくづく感じます。」
生産者の気持ちが味に表れる
いわて牛との出会いは、2009年のことです。当店で「ドライエイジング(乾燥熟成肉)」に取り組むことになり、それに適した牛肉を探すことに。東北各地のブランド牛を食べ比べるだけではなく、自ら牛舎へ足を運び、どんな育て方をしているのかも見学しました。
最後に訪れたのが、岩手県奥州市の菊地畜産でした。印象的だったのは、牛がシャベルで背中をかいてもらい、気持ちよさそうにしている姿。牛と人との距離感、仲の良さが伝わってきました。肉質を調べると、水分の抜けがよく、サシが過度に入っていないため、熟成させるのに最適でした。「これだ!」と思いました。
バトンをつなぐ
最高の素材だけに、その良さを最大限に引き出そうと調理にも気合が入ります。鉄板焼きは火の入り加減が命。肉全体にいかに均一に熱を入れることができるか。焼ける音、肉の色など、五感を研ぎ澄ましてイメージを膨らませます。
料理人とは、生産者から食材というバトンを受け取り、お客様に提供する、いわばリレーのアンカーだと思っています。生産者の思いをお客様へとつなげることができるよう、これからも情熱を持って打ち込みたいと思います。
神奈川県出身。高校時代を岩手県で過ごし、奥様も岩手県出身ということもあり、いわて牛に巡り合った時には縁を感じたのだそう。
〒104-0045
東京都中央区築地2-9-8
TEL.03-3544-9638
(要予約)
埜瀬兼仁さんは調理の道に入り25年近くになるベテラン。焼き加減や味付け、人柄にほれ込み、長年指名を続けるお客さんも多い。
そんな埜瀬さんでも、かけ出しの頃は鉄板の前で手が震え、お客さんのグラスを倒してしまったこともあるという。失敗を乗り越え、鉄板焼きにさらに没頭。月日を重ねるにつれ、指名するお客さんが続々と増えていった。
お客さんはもちろん、生産者への感謝の気持ちを常に忘れず、食材への思い入れも人一倍強い埜瀬さん。肉についてさらに探求し、希少部位をコーススタイルで味わってもらえたらと構想中だ。
肉を常温に戻しておくと火の入りがよく、おいしく焼き上がります。2~3cmの厚みの肉で大体30分が目安です。
㈱岩手畜産流通センター直売課
TEL.019-676-4600
いわて牛普及推進協議会 WEBサイト
http://www.iwategyu.jp/
牛本来の力を最大限に生かす
肥育するとき心掛けているのが、牛にできるだけ負担をかけないこと。牛の胃袋にはもともと微生物がいて、その微生物がエサを消化するのですが、その力を最大限生かすようにしています。
エサの食いつきがよければ、サシ(脂)の入りもよくなります。でも、無理に食欲を促進させようとは考えません。当社の牛は小ぶりな部類に入るかもしれませんが、歩留まりがよいといわれています。
肉質で勝負
おかげさまで、当社の牛の肉質を名だたる料理店やバイヤーが評価してくださっています。その声を決して裏切ることはできない。中身・肉質で勝負するという、今の姿勢を貫きたいと思っています。
「鉄板焼きKurosawa」の埜瀬副料理長から「菊地さんの所の牛が届きましたよ」と連絡をいただいたことがあります。個体識別番号を聞いて、すぐにどの牛かわかりました。「その牛は食いつきがよくて、肉質も良いと思いますよ」。「ありがとうございます。心を込めて調理しますね」。このやりとりが、生産者の苦労が報われる瞬間でもあります。たくさんの料理人とそんな瞬間を共有していきたいですね。