特集シリーズ

三陸沖スルメイカ漁同乗体験記

大船渡地区で一番の水揚げ高を誇る兄弟船第八千鳥丸

寒流の親潮と暖流の黒潮が交わる三陸沖は、世界三大漁場にも数えられる魚介類の宝庫。リアス式海岸という天然の良港にも恵まれた岩手県では、古くから漁業が盛んに行われてきました。中でも沿岸漁業は国内有数の歴史と水揚量を誇り、アワビ、ワカメの生産高は国内トップ。ウニ、鮭は全国第2位と、現在も三陸沿岸は国内有数の漁業基地として、全国に数多くの魚介類を送り出しています。

魚介類の中で日本人が最も食する「イカ」漁も盛んです。(平成16年度国内供給量約64万トン/2位・まぐろ53万トン/さけ・ます類44万トン)。三陸沖のイカ漁はスルメイカが主流で、漁期は毎年6月〜12月にかけて。初夏から夏にかけは比較的小型で水深の浅い岸近がポイント。秋が深くなるにつれ型も大きくなり漁場も沖合いの深場へと移動。特に晩秋から冬にかけての時期は、成熟度も増して胴長30cmもある大型の物がメインに。身も厚く食べ応えのあるスルメイカが毎夜水揚げされており、漆黒の太平洋を煌々と照しながら漁をする様子は、三陸を代表する風物詩のひとつでもあります。

今回はその三陸沿岸のイカ漁基地のひとつ大船渡市越喜来漁港を訪問。長年イカ釣りを行っている第八千鳥丸の漁に同乗しました。

平田・白木兄弟と第八千鳥丸

大船渡一のイカ釣り名人兄弟とともに太平洋上へ

午後2時58分

大船渡市越喜来漁協所属の第八千鳥丸は、兄の平田昌良さん(右・58歳)、白木澤孝二さん(左・57歳)兄弟の二人で操業します。その水揚げ高は、大船渡魚市場管内のイカ釣り船の中で常にトップクラス。昨年もダントツ一位の成績を残した兄弟船でもあるのです。取材陣が同乗した10月31日も、ほぼいつも通りに午後3時前に越喜来漁港を出港。夕陽を浴びながら越喜来沖を目指します。第八千鳥丸は19トン。沿岸部のイカ釣り漁船としてはやや大きい部類で約1000馬力のエンジンを積んでいます。「足は遅いが、洋上での安定の良さはピカイチだ」兄弟自慢の船です。

午後3時44分

操舵室に立つ兄の昌良さんは、漁場の選定と操船を担当する船長兼船頭役。一方、弟の孝二さんは、操船以外の船上のすべてを担当する甲板長、漁労長といったところ。

イカ釣りを始めた40年前から変わらぬ役割分担だそうです。その昌良さんが、長年の経験と僚船からの情報を元にこの日選んだ漁場は、越喜来沖5マイル(約8km)、水深200mほどのポイント。天候は晴れ。外洋でも波高は1mほど。「今の時期としては最高の凪だ!」と昌良さん。今でこそ三陸沖でのイカ釣りに専念するお二人ですが、今から10年ほど前まではスルメイカを追いかけて日本海沿岸でも漁をしていたとか。まさに人生をイカ釣りと歩んできた大ベテランの二人でもあるのです。

レーダーを見ながら判断する昌良さん
午後4時15分

昌良さんは常に魚群探知機、船の位置を示すレーダーをこまめにチェック。僚船の情報をもとに漁場の最終決定の判断をします。そして4時25分漁場に到着。潮流れに沿って船を流すシーアンカーを海に投入します。

午後4時40分

ライト点火。暮色に包まれていた船が一気に真昼の明るさに。全体で180キロワット。船の周囲約100m範囲に集まったウミネコがはっきりと見えるほどの明るさです。ライト点灯から3分後に自動イカ釣り機がスタート。いよいよイカ釣りの始まりです。仕掛けを投入すると、あらかじめ船倉に積み込んでいた氷を発泡スチロールの出荷箱に詰めます。箱詰めする暇が無いほどの大漁時には、船倉の氷庫にそのままスルメイカを詰めることもあるとのことです

コンピュータ搭載の自動イカ釣り機が大活躍

イカ釣り開始カラフルなツノ
午後4時55分

昌良さんの読みがズバリ的中。漁を始めるとともに次々とスルメイカが釣れてきました。第八千鳥丸には2対1組の自動イカ釣り機が左舷・右舷それぞれに6基装備(計24仕掛)されています。仕掛けは全長約140m。突端には300号の錘がついており、そこから上部約40m間の幹糸にピンク、青、黄色、緑、紫など蛍光色のツノ(餌木)が30個付いています。これを海に沈めては、一定のリズムを取りながらしゃくる様に上げると、ツノを抱いたスルメイカが釣れるという仕組み。仕掛けが伸びきるまで約65秒、そこから約0・5秒間隔でしゃくりあげること65秒、水面から約70mのところまで来た段階でしゃくりはストップ。約40秒かけて一気に引き上げ。この動作を自動イカ釣り機が繰り返し行っているのです。スルメイカは釣ったその場で選別。大きさによって一箱に15・20・25・30・40杯のスルメイカが詰められます。

僚船と情報交換をする昌良さん

近代化がいくら進んでも長年の経験には絶対かなわない

午後5時45分

漁の最中も昌良さんは、レーダーを見ながら僚船としきりに情報交換を行います。この夜は半径約20kmの領域に約20隻のイカ釣り船が出漁しているとのこと。しかも、漁場にはタコかご網などもあり、一晩中洋上監視が欠かせません。雨天時でも安全に運行可能なレーダーに自動イカ釣り機と、装備の近代化が著しいイカ釣りですが、漁場の選定や仕掛けの投入タイミングなどの最終判断は人間の手にゆだねられます。「潮の流れ、スルメイカの天敵のイルカやクジラの動き、さらには他のイカ釣り船との位置関係もあるしな。仕掛けも微妙に調整しながら海に投入しないと必ず絡まるんだ。船のゆれ具合も漁に影響するしな。口では教えられないことがいろいろとあるんだわな」と昌良さんは語ります。

釣り上げられたばかりのスルメイカ午後7時15分

スルメイカは、自動的にツノ(ツノに返しがないのでツノが一回転するとはずれる)からはずれトイ状の通路に。海水の流れとともに一ケ所に集められ箱詰め作業が行われます。釣り上げられたばかりのスルメイカは、掴もうとすると腕を上げたり胴を膨らませたりと盛んに威嚇します。この時の体の色は薄い茶色。その後、茶色になったり白っぽくなったりし、箱詰めされる頃には濃い茶色に変わります。

午後10時30分

沖にスルメイカの天敵となるイルカ、鯨がいるとの情報が入り魚場を移動することに。約40分ほど走り、水深150m地点まで移動。再び操業します。孝二さんは「今日はいまいちだな」とちょっと不満げですが、それでも、この季節のスルメイカは大きさも増し胴長が30cmもあるような立派なスルメイカが主体。身も厚く食べ応えも十分。孝二さんの夕食時に船上でいただいたスルメイカの刺身は、美味しさ濃厚で歯ごたえも抜群。まさに漁場ならではの特権を体験しました。

箱詰めされたスルメイカとトラックへ積み込む昌良さん午前3時50分

ほぼ通常通り午前3時頃まで漁を行い、4時前に帰港。港に船が着くと二人は箱を降ろし、専用のトラックで大船渡市場へ届けます。そして早朝5時頃から始まるセリで中卸業者へ。県内外へと発送されるのです。市場から先は冷凍車、保冷車による輸送。この間もタップリの氷で保冷されているので鮮度抜群。吸盤に手を触れると吸い付く、生体反応がみられるほどです。輸送の早い物では、岩手県内とその周辺地域ではその日夕方、その他の地域でもその翌日には店頭に並ぶとのこと。三陸の海を代表する美味しさを抜群の鮮度でお楽しみいただけます。

健康食材「スルメイカ」の話

スルメイカイメージ

刺身、煮物、天ぷら、フライ…と、その料理手法を問わないスルメイカ。まさに食卓のオールランドプレイヤー的存在のあるスルメイカですが、血圧を下げ、肝機能の上昇に効果があるとされるタウリンを多く含んでいます。まさに、美味しくて、値段も手ごろで、からだにも優しい。しかも食味にも優れているというまさに、理想的な食材でもあるのです。

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