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生産者が語る、いわての食財。

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東北一の酪農の郷、葛巻町から。「山間のその小さな町は、クリーンエネルギーと、酪農経営の効率化で、一歩先ゆく町でした。」

「家族経営の良さを失わない。スイスの酪農が理想なんだ。」藤森雅美さん

葛巻町は、人口よりも牛の数が多いといわれるほど酪農が盛んです。岩手県北東部に広がる北上山地にあって、その面積の86%が森林におおわれ。林業と酪農、山ぶどうを使ったワインづくりが主な産業です。この葛巻にはもう一つ自慢できるものがあります。それは先進的なクリーンエネルギーを早くから取り入れていて、風力発電、太陽光発電に加え、木質バイオマス、畜産バイオマスなどの発電設備が数多く稼働しています。再生可能エネルギーの一大先進地域なんです。そして、葛巻の人たちの先見性は、酪農の経営にも表れています。それは5~6件の牧場がグループを組み、トラクターなどの共同所有や、牧草の刈り取り、ロールにし、サイレージ(発酵飼料)にしていく作業の共同化で、経営効率を高めています。

今回、取材に伺ったのは藤森牧場の藤森雅美さん。1978年と早くから共同組織「星野ゆいっこ組合」を設立。35年もの歴史を持つこのグループは、息子ご夫婦など次の世代に受け継がれようとしているそうです。日本の農業の競争力を高めるために「集落営農」の必要性が叫ばれています。でも、葛巻町ではすでに実践され、歴史を重ねているんです。

「うちの家族は、二男の夫婦と孫3人、そして私ら夫婦。町に住んでいて、牧場まで通ってきています。経営規模は、搾乳牛60頭、育成牛70頭。自分の家で育てた牛を後継牛としているので、外から牛を買うことはありません。

私たちの牧場経営の一番の特徴は、地域で共同作業を長年やってきていること。私ら親の世代から、いまは二男の子ども世代に共同作業の主役が替わってきています。

酪農は、設備にお金がかかる。トラクター1台1000万円、牧草をロールにする機械に500万円というようにね。それを5軒の牧場で共同所有すれば、費用は1/5になります。また、牧草の刈り取りやロールにするのには、5~6人の人手がかかる。われわれはお互いに共同作業で行っているので、自分たちだけでできるんです。

年に1~2回、家族ぐるみの「反省会」をやってます。バーベキューをやって、お酒も飲みます。私ら夫婦、後継者の二男夫婦と孫たちも大事なメンバーです。お互いの家族をよく知ることで共同体としての一体感が強まります。うちの子どもたちが、まだ小さかったころは、家族ぐるみでバスを借り切って海に出かけたり、東北新幹線が開通した時は、仙台の動物園に行ったりしたものです。」

地域では、「酪農ヘルパー」という制度があります。一年に一日も休めないといわれる酪農ですが、ここ葛巻町では、休みたいときに「ヘルパーさん」を頼むことで、休みを取ることができます。藤森さんは、月に2回ほど「ヘルパーさん」を頼んで休みをとっているそうです。「酪農ヘルパー」の担い手は20代後半の若い酪農後継者たち。ヘルパーとして経験をつみ、地域のベテラン酪農家と交流することで、後継者育成にもつながっているとか。

「子どもたちがまだ小さいとき、子育てと酪農の仕事に追われる母さんたちが『よつば会』という互助組織をつくりました。それがいま「くずまきジェラート・クローバー畑」っていう事業を始めています。私らの長年の夢でもあるので、成功してもらいたいね。」

葛巻町のミルクは品質に定評があるそうです。 藤森牧場の原乳は「低温殺菌牛乳」として地元の乳製品メーカーによって加工されています。低温殺菌牛乳は、原乳の品質基準も厳しい上に、その日搾乳した新鮮な原乳が求められるので、毎日、搾乳と出荷を行います。

「『いい原乳』は、牛の健康管理でしか作れない。牛の乳房にちょっとした炎症でも起こしたら、品質がそれだけで落ちるんです。いかに牛にストレスなく搾乳するかに気を使うんだ。」

藤森牧場では、一日に原乳1700kgを生産しているそうです。60頭の搾乳牛で割ると1頭あたり28kg。一頭で、1リットルの牛乳パック28パック分。牛一頭一日で、ふつうの家族の1ヶ月分以上のミルクが賄える計算です。一方で、牛乳の販売価格は、決して高いものではありません。設備投資のほか、牛の飼料にも費用が掛かります。今後、TPPで牛乳の輸入が自由化し、原乳の買取価格が下がることになれば、酪農経営は困難になるのでは、と藤森さんは心配しています。

「地域で熱心に世話してくれる人がいて、酪農の先進国に視察旅行に行ったことがあります。アメリカでは、数千頭という牛を飼って、工場みたいなところで搾乳している。オーナーは都会にいて、雇人が管理してることに違和感があった。一方、スイスでは、家族経営を守りながら、生き生きと働いている。政府が農業を、コストだけでなく、環境や景観の保護という面からも評価して、地域の農業を守っている。その時はうらやましいって思ったな。コスト重視でいけば、原子力もなくさないってことになるけど、私ら葛巻町はクリーンエネルギーがいいと思っている。酪農経営も、家族経営が基本で、地域で力を合わせてやっていくのが、私らのやり方なんです。」

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