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生産者が語る、いわての食財。

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いわての自慢のふたつの実り。「江刺のリンゴ、花巻の雑穀、個性豊かな、いわての実り。」

「高校卒業と同時に、農業の世界へ。横浜育ちの若きリンゴ生産者。」 リンゴ農家 高野寛子さん(奥州市江刺区)

笑顔で迎えてくれたのは、若いお母さん。風邪をひいて、幼稚園を休んだというご長男を、おばあちゃんに預けて、私たちをリンゴ園に案内してくれました。高野寛子さんは、ご主人と、三人のお子さん、ご主人のご両親と暮らしています。農家のお嫁さんとして家庭を支える寛子さんは、県内でも注目される、若手のリンゴ生産者です。
農園につくと、やさしいお母さんの顔から、プロのリンゴ生産者の顔へ。18歳の時、実家のある横浜から、単身農業の勉強に岩手にやってきました。母校は、金ケ崎にある「岩手県立農業大学校・果樹経営科」。そこでの恩師との出会いが、リンゴ栽培の奥深さを教えてくれたとか。

「リンゴはしゃべるんだ。おまえはリンゴの声が聞こえないのかって言われました。リンゴは一度植えたら、何十年も付き合っていかなくちゃならない。リンゴの木の何年も先のことを考えるんです。剪定(せんてい)ひとつにしても、来年のことがわかってないと、ハサミひとつ入れられない。学生の頃、夏季剪定を行ったんですが。おまえやってみろと言われて…。はりきって、まじめに全部落としていったら、かえってリンゴが暴れてしまって…。その時、言われたんです。『リンゴの声』の言葉。
リンゴの声は、もう聞こえたかって?いえいえ、まだまだです。奥深いんです、リンゴって。主人の父は、リンゴづくりの名人って言われる人ですけど、最近ようやくわかってきたって…。50年やっていてですよ。簡単にはわからないから面白いんですよ、きっと。」

ユニークなのは、リンゴ作りのためにご夫婦で役割分担を行っていること。「リンゴ職人として、リンゴ作りに向き合いたい」というこだわりです。

「江刺のリンゴの特徴は、糖度が高いこと。それは手の掛け方に秘密があります。リンゴは、実になる花を選ぶ『花摘み』、育てる実を選ぶ『摘果』、育った実に日光を当てて、赤くする『葉摘み』『実回し』という過程があって、摘果、葉摘み、実回しはそれぞれ2~3回行います。『蜜』の入った、甘いリンゴをつくるのには、ぎりぎりまで木にならせておくんです。北に行くと、早く雪が降るんで、早めに収穫しなくてはならないんですが、江刺は雪がくるのが遅いので、そのぎりぎりが待てるんです。また、葉を最後まで残すのも大切で、葉からの養分が甘みを作ります。葉摘みで、葉を全部とってしまう地域が多いんです。そうすれば、手をかけずに日に当たるので、全体に赤くなるから。私たちのところでは、葉を残して実回しをして赤くします。その手間の差で、リンゴがさらに甘くおいしくなるんですよ。」

つぎに、案内されたのは、巨大な冷蔵倉庫。「いまうちの農園では、一年中、ぱりぱりのリンゴを出荷できます。収穫したリンゴにエチレン発生を抑える処理をして、冷蔵保存するんです。11月に収穫して、翌年の7月でも、とれたての鮮度に近いものが食べられます。」

高野さんのリンゴ園では、品種改良も手掛けていて『紅ロマン』『ゴールドロマン』など、の新しい品種を開発しています。これは、一品種を世に出すのに10年、1品種あたり3億円の費用がかかると言われる果樹の品種改良では異例なことだそう。時間も費用も掛かる品種改良は、多くの場合、農業試験場などが手掛けます。

案内されたのは、若い果樹が栽培されている一角です。リンゴ園よりも、果樹が密生していて、一見、新しい品種を生み出すラボラトリーには見えません。
「ここで、お義父さんが、近所の子供たちに、旨いリンゴを見つけたら教えろって、自由に実をとらせてます。その前に、お義父さんの方が、よさそうな実はほとんど取ってるんですけどね。全部、品種が違うので、味も違うんですが、中には本当に美味しくないのもあって、それを食べた子どもたちは大騒ぎでした。」

そこに、原付バイクに乗ったお義父さん登場。リンゴ名人は終始にこにことロマンシリーズの話、品種改良の話を話してくださいました。
「江刺ロマンと名づけたいヤツが見つかった。」と言い残して、去っていきました。なんとも無邪気な、愉快な印象の方。リンゴづくりの魅力が垣間見える気がしました。
「紅ロマンを開発したとき、『リンゴの神が降りてきた』って夜中の、2時3時に、お義母さんを起こしたんだそうです。(笑)」品種改良は、なかなか上手く行かないものらしく、果樹は実をちゃんとつけるまで5年以上。時間をかけて開発した品種でも、定着することなく市場から消えていくのも多いとか。それだけ難しいことを、やり遂げたときの喜びようがわかるエピソードです。

「ここは、紅ロマンの苗木を栽培しています。ロマンシリーズの苗木は、北海道へも出荷していて、私たちのリンゴ園を支える重要な収益源です。お義父さんは、師匠でもあり、越えられない大きな壁というか、リンゴの職人として肩を並べるには、それこそ50年かかっても足りないくらいです。だから、夫と私の世代は、お義父さんが手を付けなかった、経営の視点でこのリンゴ園をさらに良くして行きたいと思ってます。
仙台から、はるばるここにリンゴを買いに来てくれるお客さんがいるんです。『近所の人におそそ分けしてもらって、あんまりおいしいから買いに来たわよ』って、本当にうれしくって、生産者冥利につきますね。」

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