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料理人が語る、いわての食財。

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分とく山 総料理長 野崎洋光さんが語る「和の食材」

食材を使うとき、生産者の顔が思い浮かぶ。そんな信頼関係がうれしいんだ。

 東京、南麻布にある日本料理の有名店「分とく山」の総料理長、野崎洋光(のざきひろみつ)さん。日本料理のコツをわかりやすく解説して、テレビや雑誌などでひっぱりだこ。土鍋で炊くごはんなど、野崎さんの著作がきっかけでブームになったことでも知られています。野崎さんは、震災前からたびたび岩手を訪れ、各地の生産者や土地の人たちと交流しています。分とく山の看板料理のひとつ、アワビの磯焼きは、三陸のアワビがきっかけで生まれたとのこと。岩手の食財を愛してやまない野崎さんにお話をうかがいました。

 三陸のアワビはね。見た目からちがう。貝殻に海藻がついたままで、活き活きしてる。ひと目でほかの土地のものとは違うと感じたたんです。これはね、海藻が豊富な海で、アワビがストレスなく育った証拠。三陸はリアス式海岸で、山がすぐ海に近接してる。山が海を育てるっていうけれど、三陸の海は、魚たち、貝たちには桃源郷の海なんだろうね。食べてみると、旨みがあって、味のキレがいい。これほどのアワビだから、蒸し焼きにすると、やわらかで旨みが凝縮する。それに磯の香のわかめを添えて、好き嫌いのある肝も薄めるなどして味を調整すれば、何度食べても飽きがこない料理ができた。いまでもこの料理は、うちのコースに必ず入っています。
震災前に、三陸の吉浜から、漁師さんの船に乗せてもらったことがありました。寒い冬の深夜に港を出て、ちょっと海が荒れていた。板子一枚の下は地獄なんて言葉が思い浮かぶほど、怖かった。戻ってきて、獲れたものの浜での値段を聞いたら、安くてびっくりしました。こんな苦労をして、そんな値段でいいのかと思った。浜に戻り、番屋でいただいた土地のおばちゃんたちが作った味噌汁は絶品でした。
岩手では、魚介の他にも、安比高原の湯葉で、それこそ京都よりも旨いと思うものがある。ある醤油メーカーのもろみ味噌は、あつあつのご飯にのせて食べると絶品。わが家でも無くなると困る味のひとつです。ぼくは、盛岡から南にちょっと行った紫波町によくお邪魔します。実は、ぼくがアテネオリンピックで長嶋ジャパンの料理長をしていたとき、ここのもち米を持って行きました。現地のお米と混ぜてたくと、ねっとりとして美味しかった。いい思い出です。
ぼくが、岩手のものを使うとき、岩手で出会った生産者の顔が目に浮かびます。この人の作ったものなら間違いないっていう信頼感ですね。料理でもそれは同じで、たとえば寿司は手で握る。料理人が清潔にしていることも大切な基本です。その信頼感がなければおいしく食べられませんよね。最近、ちょっと気になっていることのひとつに、日本の農林水産物は高いって論議がある。本当にそうなんだろうかと思う。生産者は、とても厳しい条件で生産している。たとえば、料理店では、10キロ6000円の高級米を使う。10キロ10000円のさらに高級な米もある。これでも、茶碗1杯30円。コンビニのおにぎりは150円でも平気で出せるのに、お米だと出せない。諸外国は安いのに、ってなる。
ぼくの郷里の福島県古殿は、出かけるときに鍵をかけません。田舎だから警戒心が薄いっていうかもしれないけど、何十年、何百年ってかけて、信頼感が生まれている結果ともいえます。日本の生産者と消費者の関係も同じだと思う。日本の農林水産物を安心して食べられる。この当たり前だと思っていることは、長年、この国で、生産者と消費者のみなさんが築きあげてきた信頼関係なんだと思います。外国の安い農林水産物がこの先どんどん入ってくるとき、みんなが安さだけで選んだら、日本の生産者は立ち行かない。顔の見える日本のものがいいなぁと、選んでもらえればうれしいですね。
福島の方では、真の手と書いて、「真手(までい)」という言葉があります。丁寧で心をこめてという意味で「あの人は真手だね」「真手にくらす」というように使うんです。岩手の生産者の人たちは、真手な人たちだと思う。だから作る食材もいいんだな。岩手は、東北は。

分とく山

〒106-0047
東京都港区南麻布5-1-5 TEL.03-5789-3838

野崎洋光(のざきひろみつ)さん
プロフィール

「分とく山」総料理長。福島県石川郡古殿町出身。素材そのものの味を生かした料理と「食の原点は家庭料理にあり」という考えが多くの共感を呼ぶ。著書も多数あり、わかりやすい説明と豊富なアイデアの料理が人気。2004年には長嶋総監督の希望によりアテネ五輪日本代表野球チーム総料理長に就任など多方面に活躍している。NHKを中心にテレビでも活躍中。

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